ウイスキーを描く人 nomusuru
- 由華 及川
- 9月17日
- 読了時間: 2分

ウイスキーを絵にする── その唯一無二の表現を続けているのが、アーティスト「nomusuru」として活動する五十嵐雄生さんだ。
好きなウイスキーの魅力を伝える際、「もっと正確に、すべてを表わすにはどうすればよいか」と模索。言葉だけでは説明できない事柄を表現する手段として絵画に取り組み始めた。
1杯を味わう際に刺激される味覚や嗅覚を解体し、手探りでキャンバスに向かう。
初期の作品は、味や香りの断片を一点に凝縮するスタイルだった。
「飲む前に感じる香りや、真ん中の味の部分など、強い印象が残った部分を切り取って描く感覚でした。水平線を見ているようでもあり、上から俯瞰して眺めているようでもあった」と振り返る。
その絵は、一杯の中に秘められた核心のみを閉じ込めた宇宙のようだった。
やがて五十嵐さんは、飲むという体験の全体を描きたいと願うようになる。
時間とともに移ろう余韻まであますところなく描き、白い余白には空気を漂わせ、キャンバスの外にまで感覚をにじませていく。
絵を見てウイスキーを口に含めば、わたしたちは「飲む」という行為そのものを、美的な体験へと昇華できる。

これまで彼は、絵画制作や販売、展示、ZINEの制作、依頼によるオリジナルラベルのデザイン など、多彩な活動を重ねてきた。
その表現の軸は一貫して「味わうことの美学」を探ることにある。最近では酒販店とのコラボレーションや展示などの声がかかるようになった。
「ウイスキーラベルは、独特の堅牢なフォントが普及していますが、もっとアーティスティックな表現があってもいいと思います。新しい価値を提示していきたい」と五十嵐さんは語る。

今後は、お酒にまつわる古本の販売会を予定している。香りを味わうように文字をめくり、時間を超えて文化を飲み干す──そんな知的な遊び心を広げる試みだ。
飲酒という日常の営みを「美的体験」として捉え直し、そこから新しい文化を紡ぐ。五十嵐さんの挑戦は、これからますます深みを帯びて広がる。





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