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食文化を観光資源に/北海商科大学 池ノ上真一教授 インタビュー上


北海道の食文化を高めるため、何ができるのか。

観光学者の見地から、北海商科大学商学部の池ノ上真一教授にお話を伺いました。



付加価値を高めて食を「美的体験」に


― 北海道の食を観光に生かすには。


 知性と感性を活かした「高付加価値なコンテンツ」が鍵になります。


 北海道には豊富な食材がありますが、単に美味しいだけでは、魅力の最大化は難しいでしょう。

 食材が生まれた背景、地域の歴史・文化などを伝えることで、食が文化的・美的体験に変わります。


 観光客はただ食べるだけでなく、土地の風土や食材のストーリーを知ることで、より深い満足感を得られるに違いありません。


― 具体的には。


 例えば、食材の産地を訪れ、生産者と交流できるツアーがあれば素敵ですね。農場や漁港を訪れ、食材がどのように育てられ、収穫されるのかを実際に体験できるようにするとか。

 

 料理の提供方法も、創意工夫のしがいがありそうです。

 ただお皿を並べて食べるのではなく、シェフが食材のストーリーを語る場を設けるなど、さまざまは演出を加えることで、特別な食体験をクリエイトできます。


瀬戸内国際芸術祭の挑戦


― これまでにそういった事例は。


 「瀬戸内国際芸術祭」では、地元食材を使った食体験がアートの一部になっています。料理の味だけでなく、提供する空間や器、料理の説明など、すべてが一体となって作品のような体験を提供していました。


  北海道でも、歴史的建造物や大自然などを舞台にした食空間の提供など、魅力的な演出ができる舞台はたくさんあります。

 例えばアイヌ文化との融合や、その食材発祥の地でのイベントなどが楽しそうです。

 地域ごと、食材ごとに独自のテーマを掲げれば、北海道ならではの文化的価値を提供できるはずです。


―生産者との連携については。


 小規模生産者には、それぞれに独自のストーリーがあります。

 農園や牧場の作り手が、日々のルーティーン、生産の喜びや課題などを観光客に伝える。そういった場をつくれれば、食材の価値がさらに高まるのではないでしょうか。


 ほか、伝統的な製法で作られるチーズや味噌などは、作り手の思いや背景を知れば知るほど、単なる食品ではなく、文化的な価値を持つものに変化します。アートなどとの相性もよいでしょうね。


 生産者と消費者が直接交流できる場は、観光地としても大変魅力的です。


地域まるごとのブランディングにDMO


―地域の連携強化に有効な手立ては。


 DMO(観光地域づくり法人、Destination Marketing/Management Organization)などが価値向上に資するでしょう。

 DMOとは、地域住民や役所、多種の産業が連携して観光産業を推進する法人です。観光資源を地域でブランディングするためには大変重要な立場にあります。


 もし、DMOが食材や料理、体験プログラムを統合的にプロデュースし、生産者や飲食店、宿泊施設と連携すれば、食文化全体を一つのブランドとして発信できます。食の魅力を伝える仕組みがあれば、地域の価値もより高まるでしょう。



気候変動はチャンス


―気候変動で採れる農水産物が変化している。


 北海道でも作物の変化が進んでおり、従来の農産物が育ちにくくなる一方で、新たな作物の栽培が可能になっています。


 近年は、道内各地でワイン用ブドウの栽培が盛んになっています。気候変動による影響ですが、逆に新しい食文化を生み出すチャンスでもあります。『北海道らしい食の物語』を常に更新し、ブランド化する気概が必要です。


食は地域のアイデンディティ


―北海道の食文化の未来は?


 食は地域のアイデンティティです。


 地域の人たちが、地元食材の歴史や文化などを学び、その「ひと皿」に知性や感性を織り込めば、世界に誇れる観光資源になり得るでしょう。  


 地元の人たちが一体となって食文化を発展させていくことが、魅力的かつ持続可能な地域作りの一助になるはずです。


北海商科大学商学部観光産業学科 教授 池ノ上 真一 (いけのうえ しんいち) プロフィールはこちらから

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